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傷付いて泣いた夜の痛みは、胸に今もちゃんと残っている。
「微糖で」
「オッケイ」
輪島さんの視線が私まで伸びてくる気がして、咄嗟に扉に隠れた。
“ガコン”という音がした後「ねぇ、栞」と輪島さんが彼を呼んだ。
聞き耳を立ててしまう私はなんて気が小さいのだろう。
“お疲れさまです”と二人の輪に入っていけるくらいの性格なら、きっと輪島さんのことでクヨクヨせず、聞き出せたはずだ。
「ん?」
「昨日ありがとね。ほんと……会えてよかった」
「おぅ」
「栞の言う通りだったね」
会えてよかった、だなんてカップルの会話だ。
普通の男女の会話ではない。
「ははっ、だろ?」
春立さんが笑ってすぐだ。
「飯島?」と佐藤さんに顔を覗かれた。
二人のことに夢中で、佐藤さんにまったく気がつかない私はどうかしている。
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