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春立さんへの想いを簡単にやめられ、佐藤さんや目の前の彼のような、私がいいと言ってくれる人を好きになれたら、どんなに楽だろう。
でも、心はやはり佐藤さんの時と同様ときめかない。
私がときめくのは春立さんだけーー。
こんなにも誰かを想ったことはないかもしれない、とまた思うのだ。
「飯島さん……ダメでしょうか?」
彼はまた一歩私に近付いた。
彼は春立さんほどではないが、なかなか見た目のいい男だ。
自覚があるのか、色っぽさを含んだ瞳を上目遣いにして、私の顔を覗き込んだ。
「飯島さんのこと、入社時からずっといいなって思ってました。ここのところ佐藤さんと噂があったんで、諦めるしかないと思ってたんですけど違うなら、僕と付き合って欲しいです」
「……」
「もしかして、彼氏がいるんですか?」
ーーいないよ。そんなの。
迷いなく心で答えたその時だった。
「悪い、奈々は俺のなんだ」
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
夢だろうか。
背後から春立さんがやってきて、私の横に立った。
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