迷いの中で-2

21/21
前へ
/21ページ
次へ
あの日のキスはまるで、昨日のことのように、鮮明に思い出せる。 それくらい私には大切な記憶。 「あの日の飲み会は奈々ちゃん目当てで参加したんだ」 「……え?」 「奈々ちゃん頑張り屋だし、素直だし、可愛いなぁと密かにずっと思っててね」 “本当なのーー?” 顔が熱くなる。 彼から聞く初めての私の印象。 密な関係を持っているくせに、こういう恋愛話は無だった。 知りたい。 けれど、恥ずかしい。 だけどやっぱり知りたい。 「私を喜ばせようとしてます?春立さんからそんな空気を感じなかったです」 全くといっていいほど。私目当てで参加しているようには感じなかった。 たしかに、バーで二人で飲んだ時はいい感じだと思えたかもしれないが、それからは大人の付き合いのつもりだと思っていたのだ。 「うん、ごめん。でも奈々ちゃんのことちゃんと考えていたんだよ」 「……」 真剣だったというのだろうか。 期待が胸に舞い込む。 「ただ、奈々ちゃんとは深く付き合わない方がいいと思って、今日まで曖昧にしてた」 “ーーどういうこと?” 舞い込んだ期待はすぐに曇り、瞳を乾かす。 そこに春立さんが少しだけ私に近づき、スカートを握りしめている私の手に彼の手を重ねた。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加