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あの日のキスはまるで、昨日のことのように、鮮明に思い出せる。
それくらい私には大切な記憶。
「あの日の飲み会は奈々ちゃん目当てで参加したんだ」
「……え?」
「奈々ちゃん頑張り屋だし、素直だし、可愛いなぁと密かにずっと思っててね」
“本当なのーー?”
顔が熱くなる。
彼から聞く初めての私の印象。
密な関係を持っているくせに、こういう恋愛話は無だった。
知りたい。
けれど、恥ずかしい。
だけどやっぱり知りたい。
「私を喜ばせようとしてます?春立さんからそんな空気を感じなかったです」
全くといっていいほど。私目当てで参加しているようには感じなかった。
たしかに、バーで二人で飲んだ時はいい感じだと思えたかもしれないが、それからは大人の付き合いのつもりだと思っていたのだ。
「うん、ごめん。でも奈々ちゃんのことちゃんと考えていたんだよ」
「……」
真剣だったというのだろうか。
期待が胸に舞い込む。
「ただ、奈々ちゃんとは深く付き合わない方がいいと思って、今日まで曖昧にしてた」
“ーーどういうこと?”
舞い込んだ期待はすぐに曇り、瞳を乾かす。
そこに春立さんが少しだけ私に近づき、スカートを握りしめている私の手に彼の手を重ねた。
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