迷いの中で-2

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「ごめんなさい、本当に……」 「もう、いいよ」 佐藤さんは背を向けたまま、スマホを差し出す。 すっかり着信音は鳴り止んでいる。 「ありがとうございます……」 受け取った時に、佐藤さんの指と指が触れた。 とても熱くて、苦しくなる。 いつか、彼の手を取ればよかったとふと思う日が来るかもしれない。 けれど、私は自分の心に正直でいたい。 「かけ直してもいいぞ」 そこまで私はひどくなれない。 せめて、この家から出てからーー。 「いえ、後でにします」 「……そうか」 ーーしーん。 少しの間沈黙が流れる。 なんとなく“帰る”の一言が言えない。 「駅まで送るぞ」 佐藤さんがようやく振り向く。 彼の瞳は赤く染まっていたけれど、顔つきは穏やかだ。 胸が切なく揺れるけれど、私もぎこちなく笑顔を作った。 「……え、いえ。大丈夫です」 「タクシーで来たから道わかんないだろ?駅まで少し離れてるぞ」 スマホのナビを活用すればいいと思い「大丈夫ですよ」と拒んだが「このところ、近辺で痴漢が出てるらしいんだ。何かあったら大変だから」と彼は言った。
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