85人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「実は俺、あと半年で会社を辞めるんだ」
“ーーどういうこと?”
頭が真っ白。
思考停止。
「驚くよね」
苦笑いする春立さんに笑い返せない。
「……は、はい」
びっくりしない人の方が少ないと思う。
なぜ会社を辞めるのだろう。
安村製菓はそれなりに大手である。
それに春立さんは将来有望人物なので、辞めるなんて勿体ない。
絶対上にいくであろう人なのにーー。
「一部の人にしか話してないけど、家業を継ぐことになったんだ」
「家業……」
さらに驚きが襲う。
「あぁ」
「えぇ……。そうなんですか……」
「うん」
「ご実家、農家とか旅館をされている……とかなんですか?」
家業を継ぐと聞き、思い付くのはそれくらい。
なんてボキャブラリーの少ない私だろう。
「いや……」
春立さんが苦笑する。
そして、控えめに「実家は、harutaなんだ」と言って、手を離した。
それを聞き思い付くのは、株式会社haruta。
それは菓子や乳製品を生産、販売している会社である。
ロングセラー商品もいくつかある、有名な会社だ。
言葉を発せられない。
最初のコメントを投稿しよう!