赤く燃える。

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「俺は、嫌っす」 「あつひこ……頼むよ」  反対っす。  もう一度、強い口調で、声の主が拳を握る。  いつだってそうだ。僕の唯一の後輩、あつひこはお調子者で、よく一人で突っ走ったり我儘を言ったりして、皆を困らせた。  それなのに、不思議と憎めないのは、彼の持前の明るさやひたむきさ、ここぞというところでしっかり決めるポテンシャルにあるのだろう。  世話を焼いて心配ばかりしていたつもりが、そのポジティブさに助られたことも多かった。  あつひこがいてくれたおかげで、僕自身も気持ちを前に向けられたのだと、今なら素直に言える。 「お前はもう一人前だよ」 「まだまだっす……勝ち逃げするんすか」 「仲間同士で争っても仕方ない。前にも言ったじゃないか」 「じゃあ、これからは仲間から抜けるんすから、今度こそ勝負してくださいよ。業界抜けたりは、しないんすよね?」  あつひこの言う通りだ。次の職場も同じ業界、いわば今の仲間と競合する形になる。  もしかしたらどこかで、ライバルとして顔を合わせる時もあるかもしれない。  お互い元気にやっていきましょう。そんな、あつひこなりのエールなのだと気付く。 「わかった。負けないからな」 「へへっ、俺だって」  拳と拳をこつんと突き合わせて、にやりと笑みを交わした。
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