0人が本棚に入れています
本棚に追加
「所長。みんなも。最後にひとつ、話があるんだ」
場が落ち着いたところで切り出した。
さよならの理由。これだけの仲間に恵まれていてなお、別れを選んだその訳を、どうしても話しておきたかった。
「皆、僕たちの仕事で不思議に思ったことはない? ちょっとした違和感、とかでもいいんだけど」
願わくば、この遠回りな言い方で察してほしい。
それなら心当たりがある。そういうことか。そう言って欲しかった。
しかし、そんな願いも空しく、皆は顔を見合わせるばかりだ。
やはり誰も、誰一人として、気に留めてもいないのか。
「つまりさ。どうして僕たちは同じなんだろうって、不思議に思ったことは?」
「同じってどういう意味?」
「さっきから何の話をしてるんだ?」
冷静に、客観的に見てくれるはずのさやかでさえ、目を瞑って腕を組んだまま、微動だにしない。
僕は、自分の弱さが嫌になりそうだった。
ちゃんと言おうと決めてやってきたのに、決心したはずなのに。
これは、皆の根っこの部分。アイデンティティーに関わるデリケートな問題だ。
言えば嫌われるか、おかしなやつと笑われるかもしれない。
やはりこのまま、それなら良いんだ、と首を振って、綺麗にお別れするのが良いのかもしれない。
「頼む、言ってくれ」
俯きかけた僕の耳に、力強い声が響く。
ああ、そうだ。
ともゆきはいつだってそうだったのだ。
相手が誰であろうとも、まっすぐに、真正面から立ち向かう。
例えそれが、仲間の僕であろうとも。
「わかった。回りくどいのはやめよう」
最初のコメントを投稿しよう!