世界が終わる

5/14
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
 ドカドカという無遠慮な音がする。  私がその音に起きられないでいると、母が対応した様な声が聞こえた。 「おい、起きろ。お前が行こうって言ったんだろう」  また無遠慮に肩が揺すられる。 「また寝坊か」  目を開けると、陽光に照らされた麦畑のような金髪が目に入ってきた。 「乙女の体に何をする」  そう言いながら、私はなんとか重力に逆らい起き上がる。 「寝起きにそんな低い声を出すやつを、俺は乙女とは呼ばない」  苦笑いと共にぴしゃりと言い放たれてしまった。 「んー」  うめいていると、水を一杯入れた洗面器が目の前に現れ、顔に冷たい感触が触れる。 「乙女の顔を」 「はいはい、俺はどうせマナーのなってない田舎者ですよっと」  言葉と同じくらいの粗暴さでごしごしと顔を拭いてから、マルコは立ち上がる。 「それじゃあ、早く準備しろよ」  そう言って彼は寝室を出て行った。  私はゆったりとした朝の空気を感じながら、いそいそと着替える。  鏡で髪型を整えながら、自分の姿を確認する。  ――やはり今日もまた変わっていない。  写真のように変わりない、鏡の中の自分を睨み付ける。  私の成長は、十六才の誕生日を迎えてから止まってしまった。  母親曰く、何十世代かに一度、老いと死から見放された魔女が生まれることがあるのだとか。  そういった魔女達は他人には真似出来ない程の長い時間をかけられるので、研究において偉大な魔法使いになるらしい。  私もそうなのだろうか。  世界にはまだ、そんな魔女達が死ぬことなく生きているらしい。  私は目の前に寝転がる膨大な時間の事を考えて、またひどく憂鬱になった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!