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火薬の宿縁
「人間の宿命だよ」
「知っているのに思い出す事が出来ないんだ」
「産まれる前から知っている純粋なる記憶が」
「コボルトおじいさんはいつからそんなことを考えるようになったの?」
「アニタが産まれるずっと前からだよ」
ここはコボルトおじいさんの住処、おんぼろのほったて小屋でコーヒータイム。
私、アニタは変な事を考える癖がある。
この人が産まれたときに、誰が見守っていてくれたのだろうか。
人は、運命の女神に気にいられなければ、苦労を無駄にしてしまうのだろうか。
コボルトおじいさんがいれてくれたインスタントコーヒーを飲みながら朝日が差し込んだ窓を見る。
「お父さんが亡くなった日の事を覚えているか?」
「うん」
「アン母さんが取り乱して半狂乱になった」
「お父さんは最愛の人だったからな」
「最近アンは寂しそうじゃないかい?」
「何だか寂しそうね」
「あのね、本当はアン母さんの若い頃の話を聞きたいんだ」
「戦争に行った時の話」
「今は無理だろう」
鳥が外で鳴いている。外の空気が変わった。
私の母さんの若い頃に戦争があった。大陸戦争。
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