2 抱き枕

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2 抱き枕

抱き枕は、いま、どうにかしてこの状況から抜け出せないかと、必死に頭を巡らせていました。 マシュマロタッチの生地にマイクロビーズが入った、包み込むような質感のボディは、ご主人を虜にしました。毎日毎日、寝るときには必ず抱き枕さんを横抱きにして寝ています。 当初は、非常に光栄に思っていました。抱き枕冥利に尽きるとでもいうのでしょうか。ベッドに飾られているクッションや犬のぬいぐるみを尻目に、自分がいちばんご主人から愛されているんだ、と胸を張っていました。 しかし、その日は突然訪れました。 ある夏の夜のことです。夜にもかかわらず、気温は38度、湿度70%を超える猛暑日。うだるような熱気でした。狭い1Rの部屋は刻々と暑くなっていきます。ベッドにいる抱き枕達は、大騒ぎです。唯一、涼感タッチのシーツだけは平然としていましたが、それ以外のみんなは、ご主人が帰ってきて、エアコンが稼働するのを只管待つのでした。
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