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「国に帰るから、見送りに来てほしい。」 メアリからそう言われたのは、穏やかな春の日のことだった。 彼女は輝くプラチナブロンドに碧眼の美しい少女だ。 毎日幼稚園で読み聞かされるどんなおとぎ話に出てくるお姫様より、メアリは何倍も輝いて見えた。 彼女は本当にどこかの国のお姫様なのかもしれない。 そんな妄想をしては、一人、彼女のナイト気取りをしていた。 実際、彼女は謎めいており、住んでいる場所も家族構成も何もかもが不明だったのだ。 僕たちが会うのはいつも裏山の秘密基地と決まっていて、その場所以外で彼女を見かけることも、誰かと一緒にいる彼女を見ることもなかった。 彼女は僕よりも早く到着して、僕が帰るのを見送ってくれる。 もちろん、当初は、男として女の子を1人山奥に残して帰るわけにはいかないと主張していた。 しかし、彼女はきまって、もう少し星が見ていたいだの、風が気持ちいからもう少しここに居たいだのと理由をつけ、その場を離れないのだ。 僕の家庭は親が厳しく、門限を過ぎると外出が禁じられているため、心配になりながらも、しぶしぶ一人で山を降りるのが常となっていた。なぜ頑なに僕より後に帰ろうとするのか、大変興味深かったが、そのことを聞いて彼女が会ってくれなくなるのも怖かった。 また、そのように謎が多いところも、少年時代の僕には一層魅力的に映り、すっかり夢中になってしまっていた。
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