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ビニール傘越しにその光を見つめながら、訳の判らない状況に俺はその場で固まった。
次の瞬間、ふいに視界に広がる光が遮られた。
友達が俺の傘の前に自前の蝙蝠傘を突き出し、光から覆い隠してきたのだ。
「通り過ぎるまで下向いて」
短く告げられた声に従い、視線を足元に向ける。そんな俺の視界の隅を、まばゆい光はゆっくりと、どこか口惜しそうに通り過ぎて行った。
友達が傘を上げた時、さっきの光はもうどこにも存在していなかった。
「ごめん。俺といたせいで。でも大丈夫。お前が一人の時は絶対出ないから」
今の光は何だったのか。一緒にいたせいでとはどういう意味なのか。色々と聞きたいことだらけだったけれど、最初にごめんと謝った友達の顔を見ると何も聞くことはできず、俺達はその後無言でそれぞれの家へと帰った。
この件の後もそいつとは友達付き合いをしているし、この時のことをあえて聞いたりはしていない。
ただ一つだけ、決定的に変わったことがある。
俺もビニール傘を使うことはなくなった。
あれからすぐに購入した、大きく真っ黒な蝙蝠傘。あの体験をしたら、この色と大きさにやたらと安心させられる蝙蝠を、今後俺は愛用し続けるだろう。
ビニール傘…完
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