ビニール傘

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ビニール傘

 友達に、決してビニール傘を使わない奴がいる。  雨の日は必ず真っ黒の蝙蝠傘を差しているし、折り畳みも同様の蝙蝠傘を使っている。  それだけなら単純に、黒い傘が好きなんだろうと思えるが、出先で急な雨に降られた際、店が無償で貸してくれる置き傘があっても、それがビニール傘だと絶対使わないのだ。  理由を聞いたら、傘の向こうが透けて見えるのが好きじゃないという答えが返ってきた。  傘が透けていると何がダメなんだろう。むしろ前が見えた方が歩きやすくていいと思うのだが。  人間、考えはそれぞれなので、そいつはこういう奴なんだと納得し、それきり傘の好みについて言及はしなかった。  そんな友達と、休日に出かけることになった。  約束の日はあいにくの雨降りだったが、基本的に屋内行動だったので気にせず出かけた。  用事を済ませ、帰路につく。俺はどこで失くしてもいいよう、安いビニール傘を持って行ったが、友達はしっかりとした蝙蝠傘を持っている。  それを並んで差し、歩いていたら、不意に前方にまばゆい光が広がった。  時刻的にはまだ夕方にもならないが、雨で薄暗いから、ヘッドライトをつけて運転している車がいるのだろう。  最初はそう思ったが、近づいてくる光の様子がおかしい。こちらを射抜くようなまぶしさを感じるが、その向こうに車体がまったく見えないのだ。  何もない空間に光の塊が存在していて、そいつがこちらに近づいてくる。
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