声も呑まれる

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声も呑まれる

 目が覚めた。それと同時に、がばりと身を起した。  今日は朝からずっと曇り空で。雨が降ると嫌だなぁなんて思っていた。私は良いのだけれど、彼が山へ星を見に行くというものだから。  本当は私も一緒に行くつもりだったのだけれど、仕事が忙しく、どうしても行けなくて。  ちらりと窓の方に視線を投げる。案の定、雨が降っているようだった。網戸を擦り抜けてくる匂いが、むっと鼻孔をくすぐる。  大丈夫だろうか。  思いながら、ポケットに入っていた携帯電話を取り出す。向こうに着いたら連絡すると言っていたのだ。けれど、今もまだ、連絡は来ていない。それほど高い山ではなく、もうとっくに着いていて良いはずなのに。 『次のニュースです。今日の夕方……』  何とはなしに付けていたテレビから、アナウンサーの声が響いた。それと同時に、ひときわ強く風が吹き、机の上に置いていた仕事の資料を飛ばしてくれる。  慌てて立ちあがり、私は窓を閉めた。  と、同時にふと気付く。雨はまだ、降っているくせに。  遠くの山の上だけ、雲が切れているように見えた。  丁度あの辺りの山だったけど……。  そんな偶然はないだろう、なんて思いながら、私は小さく笑った。もしそうだったら、彼は喜んでいることだろう。  ああ、なんて、美しい、って。 『……さんが山道で足を滑らせて転落したと、一緒にいた友人から通報があり、明日の早朝から捜索隊が……』  ぱらぱらとベランダに落ちる雨音を聞きながら、私はぼんやりと外を見ていた。  もし星空が見えたなら、写真を撮ってきてくれると良いな。そして今度こそ二人で見に行くのだ。  何万光年先の、景色を。
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