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【3】
立花第一女子高等学校が見えてきた。
秋晴れの空にたたずむ校舎に、天沢一哉は懐かしさを感じた。もちろん天沢が女子校出身ということではなく、校舎の輪郭のひとつひとつに、青春の風を感じていたのだ。
「天沢さん、着きましたよ」
車が学校の客用駐車場に停車した。天沢はシートベルトを外し、ドアを開け降りた。砂利の感触を靴底で感じながら、校舎を見上げた。
おそらく今頃は緊急の全校集会が開かれているだろうと思った。生徒達は体育館で校長の話を聞いているかもしれないし、教師達は電話対応に追われているかもしれない。
堂本しずるが殺害され、世間では大きなニュースになっている。メディアやSNSでは、連続殺人事件になるのではないか、等の勝手な憶測が飛び交っていた。
「まずは職員室に行きましょう。私、何度かここへは来てるので案内しますよ。……えっ、天沢さん?」
堂本しずるをイジメていた三人組が学校へ来ていればいいのだが――天沢は気合いを入れるようにぐるぐる腕を回した。その時だった。
「ちょっと! 人がしゃべってんのに何音楽聴いてるんですか」
イヤホンを思い切り引き抜かれた。
振り向くと、捜査のバディ海藤優子が口を尖らしていた。
「悪い、悪い」
天沢は小さく手刀を切った。
「悪いじゃないっし! 今から事件の重要参考人と会うんですよ? 何聴いてたんですか」
海藤はあごでイヤホンの先を指す。
ポケットにはICレコーダーが入っている。
「まあ……その……ラジオ聴いてただけだよ……うん」天沢は口ごもった。
「ラジオおおお? いまああ?」
「ははっ。怒った顔、強気なチワワそっくりだ」
天沢をひと睨みすると、海藤は呆れ顔を作り、捜査一課の刑事を置いていくように歩き出した。天沢は頭を掻きながら、その後についていった。
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