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職員室の窓口で、警察手帳を提示した。対応した中年女性は目を見開いた。唾を飲み込むような表情をわずかに見せた。 中へ案内された。職員玄関を通り、校舎の匂いを感じながら、職員室へ入った。あちこちで電話がやかましく鳴っていた。メディアからの取材依頼や、父兄からの問い合わせだろう。慌ただしく応答している様子に天沢は同情した。 「警視庁捜査一課の天沢と申します」 「向島署生活安全課の海藤です」 天沢は名刺を渡した。海藤もそれに続いた。 事務職員というその中年女性は、緊張した様子で名刺を受けとった。 「二年四組の堂本しずるさんが殺害されたことで、お話を伺いにきました。担任の先生はいらっしゃいますか?」 「今は全校集会の最中なんです。それまで、お待ちいただけますか」 もちろんです、天沢は(うなず)いた。 職員室の端にある、応接室のソファーで、担任の教師を待った。 応接室といっても、パーテーションで仕切られているだけの簡易的なものだ。 窓から見えるグランドには、太陽の日差しが注いでいた。青春の汗を吸ったグランドからは、生徒がいなくても、はつらつとした声が聞こえてくるようだった。 しばらくすると、低い声が応接室に響いた。 「お待たせしました」 その男は、頭を下げるとソファーに座った。 その教師の名前は中原大輔(なかはらだいすけ)といった。 堂本しずるの担任である体育教諭だ。 体育会系出身を示すような小麦色の肌と、サイドをすっきりかりあげた髪型。今日は緊張集会のためスーツを着ているが、普段はポロシャツなんだろうな、と天沢は思った。
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