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バーの扉を開けると、アヴィーチーの『WAKE ME UP』が聴こえてきた。
十九歳の若さでEDM(エレクトリック ダンス ミュージック)界のトップDJに登りつめたミュージシャンの楽曲だ。
ダンスミュージックとはいえ、しなやかなアコースティックサウンドを絡めた彼の楽曲は、銀座のショットバーにも違和感なくなじんでいた。
天沢一哉はカウンターでジンリッキーを注文すると、店内をさりげなく一瞥した。
それだけで今夜のターゲットは決まった。
左奥の一角にいた女だ。立ち飲み用の細長いテーブルでスマートフォンをいじっていた。
彼女は“待っている”と天沢は推測した。
恋人をではない。
もし彼氏と待ち合わせをするなら、バーの外でするはずだ。彼氏にしてみても、あんなに美しい女を、こんなバーに一人にさせておくはずはない。こんな、というのは、このショットバーは、男女の出会いの場を暗黙の了解としているのだ。
男たちは皆なに食わぬ顔で、女に声をかけるタイミングを見計らっている。だから彼女は声をかけてくる男を待っている。
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