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しばらく沈黙が続いたところで、海藤がスーツのポケットを押さえ、部屋を出た。おそらくスマートフォンが鳴ったのだろう。
海藤は一分もしないうちに戻ってきた。なぜか興奮気味だった。
「どうした?」
「天沢さん、ちょっと」
海藤は天沢に小さく手招きした。二人は藍田を残し、部屋を出た。
「なあ、どうしたんだ?」
「これ見てください」
海藤はスマートフォンを横にして、動画を再生させた。生活安全課の情報係から、送られてきた動画だという。
流れる動画を見て、天沢は目を細めた。
これは――。
天沢と海藤は目を合わせると頷いた。
再び面談室に戻り、藍田順子と向き合った。
「藍田さん、これを見てください」天沢は、海藤から預かったスマートフォンを藍田に見せた。
その動画に、藍田は目を大きく開き、小刻みに震えだした。一瞬で青ざめた顔に、先刻までの余裕さはなかった。
「だっ、だれが……」こぼれた声は、あまりに弱々しかった。
その動画は、女子高生三人組が堂本しずるを橋の高架下でイジメているものだった。草むらに隠れて撮影しているのが分かる。
殴る蹴る。罵声を浴びせ、髪の毛をひっぱる。飛び交う笑い声は悪魔だ。もちろん、その三人とは西脇、鈴木、藍田だった。暗闇のなかとはいえ、街灯のわずかな光が、彼女らという証拠を十分に捉えられていた。
生活安全課情報係が、SNSで拡散されているのを発見し、すぐに海藤に送ったのだった。拡散に継ぐ拡散で、撮影主は現段階では特定できなかったが、これは確かな証拠となった。
「ああっ……」
藍田から泣きそうな声が漏れた。「で、でも、殺してはないから……」強気な姿勢はすでに崩壊していた。
「詳しいことは署でたっぷり聞きますよ。藍田順子さん」
天沢はうつむく女子高生の頭を睨みつけた。
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