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【5】
体育館に反響する音、音、音。跳ねるボール。
飛び交うかけ声。
監督の喝。
生徒達は、夢に馳せる想いを胸に、きらめく汗を流している。
天沢一哉はバレーボール部の練習が終わるのを待っていた。顧問の中原大輔に話を聞くためだ。
堂本しずるの担任を務める彼は、バレーボール部の顧問も兼任している。体育館の開放された扉の脇で、海藤と一緒に部活動の様子を眺めていた。
天沢は中原を見た。中原は生徒達に厳しい声を放っている。
部活顧問の業務はサービス残業だと聞いたことがある。教師も楽な仕事じゃないなあ、と天沢は思った。
「夢に向かってがんばる人間の顔って素敵ですねえ」
海藤が目を輝かせながらいった。
天沢はその顔に答える。
「仕事にがんばるカイちゃんの顔も素敵だぞ」
「ななっ……」海藤は驚いたチワワのような瞳で天沢を見つめた。「天沢さんのお口は本心と別行動なんですね」
「いや、お口も本心もちゃんとバディ組んでるよ。おれとカイちゃんみたくね」天沢はウインクを向けた。
「そういうところですよっ」
「ハッハッ」
海藤は天沢をほんのり睨む。
「ところで、中原大輔に聞き込みを行うのは、三人組のことをもっと詳しく聞くためですよね?」
「それもそうなんだけどね。おれは中原先生自身のことを探りたいと思ってるんだ」
「あの先生が堂本さんを殺したと? 」
「あくまで、可能性のひとつだよ。先生に、訊きたいことがあってね」
「そのことを詳しく教えてくださいよ」
「ああ。初めて会ったときに……ん?」
天沢が話しはじめた時、後ろに気配がした。振り返ると女子高生が立っていて、あのーすいませーん、と間延びした声をかけてきた。
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