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「お待たせしまた。ジンリッキーです」
「ありがとう。いただきます」
天沢はグラスを受けとると、先ほど確認した女の方へ、迷わず進みだした。スーツジャケットを整える。
勝負は迷ったら負けなのだ。勢いなのだ。疑うことなく勝てると思えるやつが勝つ。女性に声をかけることに臆してはいけない。女は、男の器量を一瞬で見抜くからだ。
天沢はその女の真横に近づいた。近くで見れば見るほど、洗練された都会の女だった。雑誌の専属モデルのような華やかさがあった。
女は天沢の存在に気づいた。スマートフォンから目線を離す。天沢は口元に笑みを浮かべ、女に声をかけた。
「こんばんは。結婚と離婚を前提に、いまから一緒に飲みませんか?」
天沢はグラスをかかげる。
固い表情を見せていた女も、天沢のジョークに相好を崩した。
「ふふっ。忙しい飲みになりそうですね」
女は上目遣いを天沢に向けてから、テーブルに置いてあったワイングラスを手にとった。
コツン――天沢は女と微笑みながら乾杯した。
「うん、美味しい。おれ、ジンリッキーアレルギーなんですけど、あなたと一緒に飲むと、なぜだかよく喉を通る」
天沢は真面目な口調でいう。
「アレルギーなのに頼んだんですか。おっかしい」女は口元を手で覆いながら笑った。「面白い人ね。お仕事は何をされてるのかしら?」まばたきのたびに、長いまつげがよく動く。
「ただの公務員です。あなたの納めた税金でこのスーツを買ったのですよ」
天沢は肩をすくめて唇をつきだす。
「饒舌な公務員さんね」
女はワイングラスに唇をあてる。
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