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「あっ、じゃあ私はここまで。今の話はコレですよ」くるみは唇に人差し指をまっすぐあてた。 では、と軽快に階段を降りていって、スカートを揺らしながら廊下を走っていった。 天沢は階段下の眼鏡姿の女子生徒に顔を向けた。 「こんにちは。兼倉透子さん。だよね?」にこりと微笑みを送る。 「はい」か細い声で、兼倉は答えた。 噂をすれば影がさすとあるが、偶然がくれる不思議な巡り合わせはなかなか面白い。 兼倉透子は階段を音も立てずに登ってきた。華奢(きゃしゃ)な体だな、と天沢は感じた。 「刑事さん……あのう」 兼倉は何かを胸に抱えながら、上目遣いで天沢と海藤を見やった。 「どうしたの?」優しい声で答えたのは海藤だ。何も心配ない。何でもいってごらん。という思いがその一言にはあった。 「これっ」 兼倉は胸に抱えていた大学ノートを海藤に手渡した。 「これは?」海藤は落ち着いた声で訊ねる。 「更衣室の、堂本さんのロッカーの奥から見つかりました……」 兼倉は唇を震わせていた。今にも泣き出すんじゃないかという表情だった。 海藤はノートをパラパラとめくった。天沢も隣から覗き込んだ。その中身に、二人は息をつまらせた。 「中原にずっと乱暴されてたんだ?」 海藤は兼倉の眼鏡の奥に問いかける。 ノートの中身は、堂本しずるが中原から受けていた性的暴行の記録と、自殺さえ考えていた心の苦しみだった。性交渉を拒めば、暴力をふるわれることもあったらしい。 「はい……。まさか、そんなことまで」 兼倉の眼鏡の奥から涙が溢れていた。海藤は、その痛みと共感するように顔をしかめていた。 「刑事さん! お願いします! しずるを殺した犯人を捕まえてください!お願いします!」 小さな体とは思えない雄叫びのような声だった。 訴える凄まじさは牙を剥き出しにした野生動物だった。 天沢は胸が熱くなるのを感じた。 「もちろん。捕まえますよ。捜査協力ありがとう」ノートを掲げて、天沢は深く頷いた。
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