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事件は大きく動いた。
一つ。堂本しずるの遺体から発見されていた毛髪が、中原大輔のものと一致した。天沢が、中原と初めて会った時こっそり採取したものだ。それを天沢が早急に科学捜査研究所に鑑定依頼をしていたのだ。
二つ。中原大輔のマンションの部屋から、堂本しずるの体毛が発見された。性交渉を示す証拠には十分なものだった。
三つ。中原大輔には、事件当日のアリバイがなかった。
世間が大きくにぎわった。
女子高校生殺しの犯人が、担任教師か、それとも藍田達イジメグループの犯行によるものか……
捜査本部もこの二人の線を軸に動き出した。共犯の可能性だってある。連日取り調べは行われたが、容疑者は頑なに否認し続けた。
あと一歩だった。
だが、その一歩があまりに遠く感じた。決定打がないことに、捜査会議では苛立った空気が流れていた。
その日、天沢は捜査会議が終わると、平井橋の真下に来ていた。
旧中川のゆるやかな川の流れを見つめた。水面は夕日をうけてきらめいている。水草は風を感じて微笑んでいるようだ。
天沢は平井橋の下から、上を見上げた。平井橋交番がすぐそこにある。
天沢は腕を組み、あごを手にのせ考えた。
なぜだ――
なぜここで殺害した?
握っていたビー玉は何を意味している?
この二点が、刑事の頭を悩ませていた。
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