【6】

2/9
前へ
/70ページ
次へ
【6】 左にウインカーをだした。 路肩に車を停車した。人気の少ない住宅街なので、すぐに停車できた。 カッチカッチというウインカー音は、海藤の心の舌打ちを鳴らしているようだった。 まったくこの人は、と思いながら、助手席の男を見た。相変わらずイヤホンを耳にあてている。 眩しい午後の日差しに照らされる姿が、憎らしいがカッコいいと思ってしまった。男の鼻筋はイケメン俳優のように筋が通っている。 海藤はシートベルトを外すと、男のイヤホンをぶちっと引っこ抜いた。男は面食らった顔で、びくんと肩を上下させた。 「天沢さん! そんなに私と話をするのがいやですか?」 海藤は天沢に顔を近づけた。 「ちょっ、近い近い近い。あの二人キスするんじゃないかって思われちゃうぞ。ま、おれはかまないけど」 「何いってんですか、まったく。今日は何聴いてたんですか」 「だから、いつもラジオ聴いてるだけだって。情報収集のためだよ。これも刑事としての仕事さ」天沢はピースサインをかざす。「もしかしたら、事件に関連することがあるかもしれないだろ」 「情報収集っていっておけばいいと思って」 海藤は深く座り直し、腕を組んだ。 「そうだ、カイちゃん。これあげる」 天沢はビニール袋から何か取り出した。それを受け取り包みをはがすと、海藤は口にふくんだ。うん、美味しい。……もぐもぐ。 やはり羊羮(ようかん)は最高だ。 私が羊羮に目がないことをいつ知ったのか……やはり捜査一課の刑事は一味違う。この羊羮も他のものとは一味違う。 どこで買ったのか、後で聞いてみようと海藤は思った。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

303人が本棚に入れています
本棚に追加