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【6】
左にウインカーをだした。
路肩に車を停車した。人気の少ない住宅街なので、すぐに停車できた。
カッチカッチというウインカー音は、海藤の心の舌打ちを鳴らしているようだった。
まったくこの人は、と思いながら、助手席の男を見た。相変わらずイヤホンを耳にあてている。
眩しい午後の日差しに照らされる姿が、憎らしいがカッコいいと思ってしまった。男の鼻筋はイケメン俳優のように筋が通っている。
海藤はシートベルトを外すと、男のイヤホンをぶちっと引っこ抜いた。男は面食らった顔で、びくんと肩を上下させた。
「天沢さん! そんなに私と話をするのがいやですか?」
海藤は天沢に顔を近づけた。
「ちょっ、近い近い近い。あの二人キスするんじゃないかって思われちゃうぞ。ま、おれはかまないけど」
「何いってんですか、まったく。今日は何聴いてたんですか」
「だから、いつもラジオ聴いてるだけだって。情報収集のためだよ。これも刑事としての仕事さ」天沢はピースサインをかざす。「もしかしたら、事件に関連することがあるかもしれないだろ」
「情報収集っていっておけばいいと思って」
海藤は深く座り直し、腕を組んだ。
「そうだ、カイちゃん。これあげる」
天沢はビニール袋から何か取り出した。それを受け取り包みをはがすと、海藤は口にふくんだ。うん、美味しい。……もぐもぐ。
やはり羊羮は最高だ。
私が羊羮に目がないことをいつ知ったのか……やはり捜査一課の刑事は一味違う。この羊羮も他のものとは一味違う。
どこで買ったのか、後で聞いてみようと海藤は思った。
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