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【7】
立花第一女子校のグラウンドは活気で溢れていた。ソフトボール部が練習試合をしているようだ。ピッチャーの腕からアンダースローで放たれる白球は、ミットの中で豪快に鳴っていた。
しかし、そんな快活さとは裏腹に、空は灰色の雲が覆いはじめていた。まだかすかに青空は見えるが、日差しは遮断され、雨の気配を感じた。
かけ声が飛び交うグラウンドを横目に見て、天沢は職員室へと向かった。
後ろからは海藤が着いてきている。
事務職員の女性に兼倉透子の所在の有無を訊ねた。おそらく、将棋部の部室にいるということらしい。
「ありがとうございます」
天沢は事務職員に一礼して、踵を返した。教えてもらった部室の場所へと歩きだす。
放課後の校舎は青春の匂いがした。
部活動に励む生徒、お喋りに花を咲かす生徒、補習に向かう生徒……この瞬間瞬間を目一杯生きようとする若い希望の空気が、廊下を走り抜けていた。
二号棟の三階に着いた。
一号棟よりも寂れた壁をしていた。廊下のタイルも埃が目立った。
「一番奥の部屋っていってたよね」
天沢が海藤に訊く。横並びで歩いている。
「ええ。資料準備室Bの隣だって」
廊下を突き当たりまで進み、将棋部の部室と思われる部屋の前で立ち止まった。
部屋の名称を示すプレートには何も書かれてなかった。人の気配すら感じられない。
天沢は海藤の目を見て頷いた。その意味を受け取り、海藤も合わせた。
天沢はねずみ色のドアをこんこんとノックした。
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