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「失礼します」
引き戸を開けて、二人は部室に入った。
四人の生徒が驚いたように天沢達を見た。四人はそれぞれペアに分かれ、将棋を指している途中だった。将棋盤の上で、手をぴたりと止めている。
「突然すいません。警視庁の天沢といいます。兼倉透子さんはいらっしゃいますか」
天沢は部屋の中に目線を走らせた。
小さな部屋だ。部室専用の部屋、という雰囲気はなかった。資料室を部室として貸している。そんなイメージが強い。部室の窓からは駐車場が見える。
「兼倉さんは……さっきどこかに行きました」
声の小ささに、一瞬誰が喋ったのか分からなかった。天沢に視線を投げ掛ける女子生徒と目が合って分かった。黒縁眼鏡のレンズの奥で、瞬きを繰り返している。
「どこかってのは、分からない?」
「はい……突然でしたから」
「どこか行きそうな場所は分からないかな?」
「さあ」
黒縁の眼鏡の女子生徒は首をかしげた。
「他のみんなも分からない?」
他の三人も小さく頷いた。小動物が餌をついばんでるように見えた。
「いつも、兼倉さんは部室を抜け出したりするの?」天沢は黒縁眼鏡の生徒の顔を見た。
「いえ。出るとしても、お手洗いくらいです」
「そっか、ありがとう。突然悪かったね、では」
天沢は四人に微笑んで踵を返した。
二人は部室を出て、廊下を歩きだした。
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