【7】

4/4
前へ
/70ページ
次へ
「どこ行っちゃったんでしょうね」 海藤が腕を組む。 「変だな」 「たまたまですかね」 「ううん」 天沢は口ごもった。胸騒ぎがした。嫌な予感というやつだ。心拍数が上がるのを感じていた。廊下の窓から空を見た。先刻よりも、雲が分厚くなってきた。ぱっと見ただけなら、一瞬夏を忘れ、寒気を感じるような白さだった。 天沢と海藤は職員室に行った。再び事務職員の女性に、兼倉透子のことを訊ねた。兼倉が行きそうな場所はないかと。他の教員にも訊いたが、皆、首を横に振った。 天沢は顔をしかめて校舎を出た。 「もう帰宅でもしたんですかねえ」 海藤が曇り空を見上げながらいった。情けない子犬の表情をしていた。 天沢は耳に冷たいものを感じた。雨がぽつりぽつりと降ってきた。湿気がじわりじわりと肌を包んでいくのを感じる。 「さっ、戻ろうか」 天沢は手の平で雨を受け止め、小走りで駐車場へ向かおうとした。 その時だった。 海藤の激しい声が背中をついた。 「天沢さん!」 天沢は海藤のほうを振り向いた。 「どうした、カイちゃん。フリーザがまだ生きてた時みたいな絶望的な顔しちゃって」 「冗談いってる場合じゃない! あれ! あれ! なんとかしなきゃ! どうしよ、どうしよう」 海藤はあわてふためいていた。 天沢は海藤の視線の先を見た。 校舎の屋上だった。一瞬、身を凍らせた。 「か……兼倉さん」 屋上の端からグラウンドを見下ろしている兼倉には、悲壮な気配が漂っていた。 飛び降りる気だ――天沢は直感した。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

303人が本棚に入れています
本棚に追加