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「どこ行っちゃったんでしょうね」
海藤が腕を組む。
「変だな」
「たまたまですかね」
「ううん」
天沢は口ごもった。胸騒ぎがした。嫌な予感というやつだ。心拍数が上がるのを感じていた。廊下の窓から空を見た。先刻よりも、雲が分厚くなってきた。ぱっと見ただけなら、一瞬夏を忘れ、寒気を感じるような白さだった。
天沢と海藤は職員室に行った。再び事務職員の女性に、兼倉透子のことを訊ねた。兼倉が行きそうな場所はないかと。他の教員にも訊いたが、皆、首を横に振った。
天沢は顔をしかめて校舎を出た。
「もう帰宅でもしたんですかねえ」
海藤が曇り空を見上げながらいった。情けない子犬の表情をしていた。
天沢は耳に冷たいものを感じた。雨がぽつりぽつりと降ってきた。湿気がじわりじわりと肌を包んでいくのを感じる。
「さっ、戻ろうか」
天沢は手の平で雨を受け止め、小走りで駐車場へ向かおうとした。
その時だった。
海藤の激しい声が背中をついた。
「天沢さん!」
天沢は海藤のほうを振り向いた。
「どうした、カイちゃん。フリーザがまだ生きてた時みたいな絶望的な顔しちゃって」
「冗談いってる場合じゃない! あれ! あれ! なんとかしなきゃ! どうしよ、どうしよう」
海藤はあわてふためいていた。
天沢は海藤の視線の先を見た。
校舎の屋上だった。一瞬、身を凍らせた。
「か……兼倉さん」
屋上の端からグラウンドを見下ろしている兼倉には、悲壮な気配が漂っていた。
飛び降りる気だ――天沢は直感した。
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