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【8】
どうしよう、どうしよう、その困惑ばかりを反芻していた。
屋上から兼倉透子が飛び降りるのは間違いないと思った。
海藤はグラウンドに走った。走りながら叫んだ。
「兼倉さーーーーん! 何考えてるのーーー! ねーーー! 少しお話させてよーーー!」
海藤の大声は兼倉にまるで届いていない。
海藤は迷った。今から校舎の階段で登っていくべきか。いや、それでは間に合わない。屋上まではそうとうな時間がかかる。いや、それでも行かなければ行けない。思考がぐるぐるした。パニックだった。
どうすればいい?
どうすれば……
兼倉透子はまた一歩また一歩と屋上の端へと近づいていく。
時間がない。まずい。
兼倉の顔に、ハッタリで飛び降りてやるなどという気配はなかった。生気を失った目には、死への覚悟が滲んでいるように見えた。
グラウンドで部活動をしていた生徒達もざわつきはじめている。何事かとかけつけてきた教師も何人かいた。
兼倉透子が口元を緩めた。
海藤はぞっとした――彼女はいま、覚悟を決めた。そう思った。
兼倉が目を閉じた、その時だった。
「貸してくれーー!!」
男の雄叫びがグラウンドに地響きのように広がった。
振り向くと、天沢が金属バッドとボールを持って構えていた。ソフトボール部から奪い取ったようだ。スーツのジャケットを脱ぎ白シャツ姿になって、腕をまくっていた。
「天沢さん」
何する気なの、と海藤は思った。
天沢は屋上を睨みつけている。その眼光は兼倉透子を見据えている。
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