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天沢はボールを宙に浮かせた。海藤には一連の動作がスローモーションに見えた。くるりくるりとボールは宙で回転し、ゆっくりゆっくり重力に従って落ちていく。
天沢はバッドを握りしめた。
拳に浮き上がった血管は命の炎をたぎらせていた。振りかぶった。唇を結んでいる。彼の放つオーラに迷いはなかった。白球にバッドがぶち当たった。
音が鳴った。
風を切った。
沈黙が包んだ。
すべてがコマ送りのように海藤には感じた。
球は燕の凄まじい飛行のようだった。
屋上へとまっすぐ飛んでいく。
兼倉めがけて飛んでいく。
球が、兼倉の顔面をとらえそうな瞬間、さすがに彼女は後ろへと倒れた。反射的なものだった。
一瞬だったのに、ひどく永い時間に感じた。
とりあえず、助かったのか……海藤は肩をおろした。
「おいっ、カイちゃん! いくぞ!」
天沢はジャケットを肩に背負いながら、校舎へと走った。
そうだった。今のうちに、保護しなければいけない。
屋上に着いた。
兼倉が尻もちをついて、床に手をついていた。
何が起きたのか理解できない、そんな表情をしていた。
「兼倉さんだね?」
天沢が腰を下ろして、兼倉の肩に手を置いた。
彼女は力なく頷いた。
「生きていて良かった」
天沢は彼女の髪をぽんぽんと撫でた。
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