【8】

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天沢はボールを宙に浮かせた。海藤には一連の動作がスローモーションに見えた。くるりくるりとボールは宙で回転し、ゆっくりゆっくり重力に従って落ちていく。 天沢はバッドを握りしめた。 拳に浮き上がった血管は命の炎をたぎらせていた。振りかぶった。唇を結んでいる。彼の放つオーラに迷いはなかった。白球にバッドがぶち当たった。 音が鳴った。 風を切った。 沈黙が包んだ。 すべてがコマ送りのように海藤には感じた。 球は燕の凄まじい飛行のようだった。 屋上へとまっすぐ飛んでいく。 兼倉めがけて飛んでいく。 球が、兼倉の顔面をとらえそうな瞬間、さすがに彼女は後ろへと倒れた。反射的なものだった。 一瞬だったのに、ひどく永い時間に感じた。 とりあえず、助かったのか……海藤は肩をおろした。 「おいっ、カイちゃん! いくぞ!」 天沢はジャケットを肩に背負いながら、校舎へと走った。 そうだった。今のうちに、保護しなければいけない。 屋上に着いた。 兼倉が尻もちをついて、床に手をついていた。 何が起きたのか理解できない、そんな表情をしていた。 「兼倉さんだね?」 天沢が腰を下ろして、兼倉の肩に手を置いた。 彼女は力なく頷いた。 「生きていて良かった」 天沢は彼女の髪をぽんぽんと撫でた。
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