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「はい、天沢です。なんですか?もう夜の0時ですよ」
「なんですかはおかしいだろ。刑事に夜も朝もねーってことくらい知ってんだろ? また警察学校に入り直すか?」
先輩刑事、村尾はいつもねちっこい。かつ、乱暴な言い草だ。あの性格で、才色兼備な奥さんと二十年近く夫婦円満でいるのだから、世の中は不思議だ。
「旧中川で殺人事件が起きた。墨田区と江戸川区の間を流れてる川だ。被害者は女子高生。巡回中の最寄り交番の警官が発見したらしい」
殺人事件――天沢は声を漏らしそうになるのを喉元でこらえた。
「所轄は向島署になる。朝には捜査本部が設立されるだろう。とりあえず、現場までこい」
村尾が通話をきる雰囲気があったので、天沢は割り込むように訊ねた。
「ちなみに、いま分かってる段階で、不自然な点はありますか?」
「夜中に女子高生が死んでる時点で不自然だろうよ」
天沢は舌打ちしそうになった。
「いえ、そうじゃなくて、現場や被害者の様子で、何かひっかかることは?」
そうだなあ、と思い出すような声が聞こえた。
「鑑識からの情報で、被害者は右手にビー玉を握っていたそうだ」
首を絞められた人間がビー玉を握っていた? 天沢はバーの真っ白な天井を見上げた。
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