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「そうですか。他は?」
「うるさい。とりあえず現場へ来いや」
場所を告げると、返事も聞かず、村尾は電話を切った。
ビー玉かあ――天沢はスマートフォンを胸ポケットにしまい、腕を組んで唸った。
犯人を示唆するダイイングメッセージだろうか。殺される瞬間に、被害者が必死につかんだのか。それとも犯人が、何らかのメッセージを込めたのだろうか。一体どんな、
「あの、すいません」
振り返ると、先程の女が首をかしげていた。不安げな表情だった。
これは失礼、天沢はすぐに笑みを作った。
「申し訳ない。急に仕事が入ってしまって」
「公務員がこんな時間に仕事ですか?」
「いろいろあるんですよ、我々、公務員ってやつも」
手帳に連絡先を記入すると、天沢はその切れ端を女の手に握らせた。
「いつか、この埋め合わせは必ずします」
女は鼻から息を漏らした。ナンパしておいて、仕事があるからと突然キャンセルする男がいるだろうか。女は恨めしそうに睨んでいた。
「最高級のシャンパンを用意した、横浜のナイトクルージングに招待しますから」
天沢は、女の機嫌が戻ったことを見届けると、すぐに踵を返した。
ジャケットのポケットから小さなICレコーダーを取り出し、イヤホンを耳に当て再生を押した。
ショットバーを出た天沢は、タクシーを拾って銀座の街を後にした。
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