Trust Me

2/3
前へ
/3ページ
次へ
 何度も何度も寝顔を覗きこんでは、起こさないようにそっと髪を撫でた。  その度に幸せそうに緩む頬とすり寄ってくる小さな頭が愛おしくて切なくて──苦しくて。  何も出来ない自分を、呪うことしか出来なかった。 『お父さんの転勤が決まったから、転校することになるの』  母親のその一言に、どれほど打ちのめされただろう。オレだけここに残りたいと何度もすがったけれど、両親が頷いてくれることはなかった。当たり前といえば当たり前だと思う。オレはただの高校1年生だし、家事だって積極的に手伝ってこなかったから、食事も掃除も母親に任せっきりだった。こんなことになる運命が始めから分かっていたなら、家事全般全部こなせるように必死になったのに。  なんの力も持たないただの子供なオレは、親の決定に従うより他なかった。  転校を強制的に受け入れさせられてから今日まで、約3ヶ月あった。だけど、クラスメイトにも誰にも、転校することは伝えなかった。担任にも誰にも言わないで欲しいと頼み込んであった。残り3ヶ月間を、「淋しくなるね」、なんてしんみりしながらカウントダウンしたくなかったし、どうせならいつも通りに楽しく過ごしたかったのだ。  なんて聞こえのいいことを思ってはみたものの、結局は自分が最後の最後──今日に至るまで、受け止めきれていなかったのだと思う。  転校するということは、目の前にいる恋人から──明から離れるということだ。  転校が決まった3ヶ月前は、まだただの幼馴染だった。好きだという気持ちを圧し殺して、友達として親友として、誰よりも(ちか)くにいた。  そんな明と離れることになるなんて、受け入れられなくて──受け入れたくなくて。だけど刻々と近付いてくる別れの日を前にして、堰を切って溢れた好きという気持ちを無遠慮にぶつけた直後は、お互いに距離が空いた。友人達の助力ですぐに元に戻ったけれど、元に戻った、は幼馴染のままということにイコールだった。  だけど、オレの気持ちをなかったことにしないでくれたのは、きっとあの時点で精一杯の明の優しさだったと思う。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加