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それだけで十分だ。気持ち悪いとか言われて切り捨てられなかったんだから、それでもう満足じゃないか。
拒絶されたらどうしようという不安しかなかったオレが、結局そのまま傍にいることを許してくれたんだからそれでいいじゃないかと、苦しい心にそっと蓋をした。
表ではいつも通りを装いながら荷造りをこっそり進めて。最後の思い出作りにと我が儘を承知で旅行に誘ったのが1学期の終業式でのことだ。
そのあと結局、明からも同じ意味での好きを返してもらえて、旅行には「恋人」として来た。
最高の思い出になった。
離れるのが辛くて苦しくて、息も出来ないくらいに泣けてしまうほどに。
こんなことなら恋人になんてならなければよかった、とか。最後の思い出なんて欲しがるんじゃなかったとか。──後悔の混じった哀しみに、暴力的に殴られてもう顔を上げることも出来ない。
明日の朝、明を残してここを出て行く。こんなに残酷な話があるだろうか。
置き手紙をしたためながら迷いを振り切ろうとするのに、幸せに満たされて穏やかに眠る顔をみていたら、振り切るどころか手放したくない想いしか湧いてこない。
「…………んで……ッ」
なんで自分はまだ高校生なんだろう。せめて3年生だったら受験を理由に無理やり残れただろうか。
なんで自分は、今すぐ大人になれないんだろう。どうしたら明と離れずにすんだんだろう。
パタパタと落ちる涙で、また便箋がダメになる。ホテルに備え付けの便箋は、もともと枚数が少ないのに。
震える息を整えようと深呼吸を繰り返しながら、涙で滲んでしまった文字を見下ろす。
くどくどしく言い訳を並べる格好悪い文章が、そこにはあった。
──最後くらい。
最後くらい、格好つけたい。
誰にも理解してもらえないかもしれないけど。
こんな自分を、きっと友人達は自分勝手だと怒るんだろうけど。
それでもせめて、恋人の前では見栄を張りたいんだと。
大きく吸い込んだ息を、震えないように慎重に、ゆっくりと時間をかけて吐き出す。
用意した新しい便箋を前にしたら、ぴたりと震えは止まっていた。
To the future after two years...
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