118人が本棚に入れています
本棚に追加
「ドロシア!」
「人の不幸を喜んではいけない――でしたわね」
ちゃんと覚えていましてよ。
悪戯が見つかった子供のように口元を押さえたドロシアだが、悪いとは思っていないようだ。リリーアリスより濃いスミレ色の瞳を細め、軽く小首を傾げた。
「リリーアリス様、使者が返答を待っておりますの。どうなさいますか?」
国王の使者程度の存在に、リリーアリスを直接会わせる気はない。言外にそう告げる心の狭い彼女の問いかけに、半分呆れながら姫は息をついた。
手の中の親書を開いて目を通し、独占欲の強いドロシアを真っ直ぐに見つめる。
「了承しました、と伝えてください」
「あら、王宮へ行かれるのですか?」
不満そうな彼女に、「また盗み見て……」とリリーアリスが苦笑する。
「開封はしておりませんわ。封印も残っておりましたでしょう?」
確かに盗み見ではない。ドロシアが読み取ったのは、文面そのものではなかった。
人や物に残留した思念を読み取る能力は、世間では『魔女』扱いされる。だが、神殿の中で庇護される立場ならば『神からの贈り物』として大切にされるのだ。
――信仰の対象として。
「ドロシア、伝えてきてくださいね」
最初のコメントを投稿しよう!