3-8.王宮の華は鉄さびた味

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3-8.王宮の華は鉄さびた味

 見つかった死体を責める気はないが、さすがに気が滅入る。王宮近くに侯爵家が所有する別宅の庭で殺された当主の葬儀をよそに、ウィリアムは淡々と仕事をこなしていた。  先日の負ったケガによる微熱と慢性的な怠さ、貧血が酷い。こうして仕事をしても効率が悪いだけなのだが、さすがに国の一大事とあれば寝ている訳にいかなかった。  ―――戦争が始まる。  まだ宣戦布告はないが、ミシャを殺した経緯を考えてもほぼ間違いはなかった。 本来なら傀儡として彼を利用する気だった筈、それを殺したのなら「必要ない」という意思表示だ。オズボーンに残された手段は、戦争による略奪と蹂躙だけ。  戦争になった場合に必要となる食料や被害規模の計算をしながら、あまりに膨大な被害予想に唇を噛んだ。先日、エリヤが署名した書類で助かる孤児を数十倍規模で上回る死者の予測数は、数字として以上の衝撃を与える。 「参ったな……」  どうにか戦争を回避する手立てを考えなくては……だが、こちらからオズボーンへ譲歩することは出来ない。それは国としての存続を危うくする。ならば……。  物騒な考えに目を細めたウィリアムの耳に、ノックもなしで開くドアの音が飛び込んだ。     
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