3-8.王宮の華は鉄さびた味

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 ばっと顔を上げれば、黒いドレスを纏った美女が優雅に礼をする。背中を覆う長い金髪がさらりと肩を滑り、艶やかな微笑みで他者を魅了する彼女が室内へ足を進めた。 「お久しぶり、ウィリアム」  本来なら執政たるウィリアムを呼び捨てに出来るのは、国王であり主であるエリヤのみ。しかしウィリアムは咎める様子なく、頬を笑み崩した。 ただしエリヤへ向ける笑みと違い、作り物めいた印象を与える表情で。  勝手に入ってきた彼女の無礼を咎めないウィリアムは、しかし仕返しのように立ち上がらない。レディに挨拶の為の手を差し伸べず、椅子に座ったまま背凭れに寄りかかった。 サインしていた書類から目を上げ、ペンを机の上に放り出す。 「ドロシアか、よく来たな。ノックをしないあたりがおまえらしいよ」  以前から何度も注意しているのだが、彼女はまったく頓着しない。相手がリリーアリスならば敬意を表して傅き、ノックもするのだろうが……他の誰にも従わない姿勢は一貫していて、いっそ清清しいほどだった。 「戦争が始まるのね」  嬉しそうに語るドロシアのスミレ色の瞳が輝く。昔から戦いを賛美する発言の多い彼女は、どうやらウィリアムの思考を一部読み取ったらしい。 「まだだ」 「でも避けられないと考えているのでしょう?」 「……何とかする」 「あら、暗殺で?」     
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