3-8.王宮の華は鉄さびた味

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 そこまで読まれたのかと目を瞠ったウィリアムが、続く声に慌てて椅子を立った。 「暗殺とは物騒だな」  国王エリヤの声は、どこか弾んでいる。ミシャ侯爵の死を悲しんでいないのは確かで、ウィリアムを傷つけた男が殺された事実を当然の報いと受け止めたのだろう。 「エリヤ……どうしてここへ」  普段ウィリアムを呼ぶことはあっても、執政の執務室に顔を出すことはないエリヤの突然の訪問に、何かあったのかと駆け寄る。 権威を示す為だか知らないが、無駄に広い室内を横断して膝をついた。幼い主が差し伸べた手の甲へ敬愛のキスを贈る。 「姉上とお茶でも……と思ったので、誘いに来た」  ドロシアもこちらにいると聞いたからな。ちらりと視線を向けた先で、ドロシアが会釈を寄越す。彼女なりに主人の弟へ礼を尽くしたのだろう。 「行くぞ」  踵を返す主に従うウィリアムへ、興味深そうに見つめるドロシアの視線が突き刺さる。無遠慮に観察した彼女が、口元を手で押さえて笑った。 「本当に、変われば変わるものね。あなたが誰かに傅くなんて……」 「その言葉、そっくり返すぜ。ドロシア」  仲がいいのか悪いのか。     
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