3-8.王宮の華は鉄さびた味

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 神殿へ『魔女』として捧げられたドロシアと、国王の為にすべてを滅ぼす騎士として『死神』呼ばわりされるウィリアムの寒い会話を、きょとんと小首を傾げたエリヤが見つめる。 「……仲がいいんだな」  空気を読まないエリヤの発言に、顔を見合わせた2人は心底嫌そうに首を横に振った。  幸せそうに微笑むエリヤが、久しぶりに顔を合わせたリリーアリスへ薔薇を手渡す。 彼女の為に選んだ薔薇は、淡いピンク色の花弁を揺らして煌く。その輝かしい光景に、ウィリアムは知らず表情を和らげた。 「まだ痛むのでしょう?」  リリーアリスの微笑に目を細めた魔女の指摘に、正直に頷いた。 ドロシアに隠し事は出来ない。それは能力的な問題もあるが、彼女は基本的に嘘を吐かないことも理由だ。敵であるときは容赦なく、また味方であれば頼もしい存在だった。 「随分、手酷くやらせたもんだ」  意味深な言葉を吐き、視線をエリヤに固定したまま紅茶を一口飲む。薔薇の香りがする砂糖を入れて口元に運んだドロシアは、口をつける直前で動きを止めた。 「あら、気づいていたのね」 「バカにするなよ。オレだって安穏と生きてるわけじゃない」  青紫の瞳が眇められて、鋭い視線が斜め前で紅茶を飲むドロシアへ向けられる。突き刺すような眼差しを平然と受け止め、美女は紅茶を飲み干してカップを置いた。     
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