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3-9.最後までステップを踏むなら
騒がしい叱責と足音が聞こえた直後、ドアは無遠慮にノックもなく開かれた。
書類にサインを終えたウィリアムが顔を上げると、息を切らして飛び込んだ男が苛立ちも顕に歩み寄る。
慌てて駆け寄る護衛の兵に首を横に振り、下がるように手で指示した。少し迷ったが、命令に逆らえないのが軍人だ。一礼して室外に出ると、音もなくドアを閉めた。
「スタンリー伯爵、顔色が優れないようですが……」
理由を分かっているから、尋ねる声に白々しさが滲む。
普段はきっちり着こなす礼服を乱したまま、伯爵の地位に就く男は荒々しく近付いた。王宮に顔を出す手前、礼服を着込んだものの……余程慌てていたと見える。襟が片方倒れていた。
「どういうことですかな?」
「何を問われているのか、私には見当もつきません」
震える男の腕が振り翳されたが、パシッと軽い音でウィリアムが払った。椅子から立ち上がり、青紫の瞳で睨みつける。その眼差しの鋭さに思わず後退った男へ、嘲笑を浮べて机を回り込んだ。
「さすがに『これ以上』傷つけられる趣味はないので……」
その拳は遠慮しますよ。
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