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丁寧な言い回しの中に、僅かに真実を潜ませた。思わせぶりに腹部の傷へ指を這わせ、口角を持ち上げて笑う様は、楽しくて堪らないと言外に匂わせている。
「……これ以上?」
眉を寄せた男は、心当たりに肩を揺らした。
襲撃させたことを気づかれている。その腹部を刺し貫いた刺客が、自分の雇った傭兵崩れだと知られてしまったのだ。それで、ようやく仕打ちの意味に思い至った。
「まさか……それで?」
「ああ、今思い出しました。先ほどのご質問ですが、返答はこうなります。『国家反逆罪と領地没収、どちらを選ばれますか?』と――」
思わせぶりに言葉を切り、微熱に乾きがちな唇を湿らせる。
「陛下は極刑をお望みだったのですが、さすがに私は気が咎めましてね」
オズボーンの使者が国王エリヤへ謁見を求めたのは、スタンリー伯爵の手回しによるものだ。その上で殺害を計画し、差し向けた刺客が執政にケガを負わせた。
領地没収程度の沙汰で済む筈がない。法に照らし慣習に従うなら、極刑を求めたエリヤが正しい。それを覆したのがウィリアムだった。
利用して捨てることに罪悪感はない。それはエリヤに説明した行動からも窺えた。ただ、すべて手回ししたのが自分自身だとは言わなかったけれど……。
大まかに事件の説明を受けたからこそ、エリヤもウィリアムの意見に渋々だが同意した。
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