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まだ殺すのは早い、最後の使い道が残っている……。
物騒に眇めた青紫の瞳を見つめ返す男が、ぎこちなく視線を逸らす。その様を冷めた眼差しで確認したウィリアムの手は、無造作にベルトからナイフを取り出した。
騎士の礼装ならば剣を下げているが、普段は執政として国王の隣に立つが故に護身用ナイフ程度の武器しか持たない。それでも敵を排除するに十分すぎる腕前の持ち主だが、周囲はそう判断しない者が多かった。そして、彼らのその認識がウィリアムの凶行を手助けする。
ナイフを左手に持ち替え、うっそり笑みを深めた。俯いて身の処し方や言い訳を考えている男は気づかない。
肌に馴染む使い込んだナイフを一度放り投げ、落ちてきた刃を掴んで左手を一閃させた。指を傷つけることなく離れたナイフが、伯爵の胸元に刺さる。
「うぐっ……」
抜こうとする男が崩れ落ち、仰向けに倒れ込んだ姿を見下ろす。
歩み寄ったウィリアムの足が、ナイフの柄を踏んだことで深々と肉を貫いた。溢れだす血が、毛足の長い絨毯を染め替える。
「バカだな、オレを狙うだけなら見逃してやったのに……。計画が順調すぎておかしいと思わないところが、おまえの限界さ。あんなに手助けしてやっただろ?」
くつくつと喉の奥を震わせて笑う。
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