3-9.最後までステップを踏むなら

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返り血を浴びることなく、ひどく楽しそうに……。  すっと踵を返したウィリアムの背で三つ編みが揺れる。水色のリボンが飾られた髪の穂先を指で弄り、溜め息をついて表情を引き締めた。  自らのシャツを破いて乱し、髪を指先で崩し、死体から拝借した血を服に散らす。わざわざ汚した姿を姿見で確認してから、立派な執務机の上から文鎮やペン、書類を落した。  ゴトン、カシャーン!  どうやら文鎮にインク瓶が当たって割れたらしい。派手にインクをぶちまけながら砕けたガラスの破片が絨毯に突き刺さった。 「どうされました?!」 「失礼します!!」  さすがに緊急事態だと判断したのか。護衛兵が飛び込んでくる。彼らの目に映ったのは、ウィリアムが作り上げた虚構の演出だった。  乱れた服と髪、血に濡れた執政が机に力なく寄りかかっている。その目前でナイフを胸に受けて絶命した伯爵、散らばった大量の書類と文具。さきほど部屋に駆け込んだ伯爵の剣幕を思い出せば、加害者と被害者は明らか――と思われた。 「……彼は…?」     
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