3-9.最後までステップを踏むなら

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 まるで伯爵が生きていることを望むようなウィリアムの呟きに、慌てて兵が脈を取る。残りの兵に助けられて、応接用のソファに座りながら、ウィリアムは笑い出しそうになる自分を抑えるのに必死だった。  肩が震えるのを、痛みに呻いているのだと勘違いした兵が医者を手配する。 「死んでいます」  報告を、さもがっかりした様子で受け止めたウィリアムの憔悴した様子に、その場の誰もが騙されていた。自分を襲った暴漢すら気遣う人なのだと……その大いなる誤解は、今後の展開で役に立つだろう。 「失礼します。ああ、またケガをしたんですか」  丁寧な口調ながら、ひどく厭味を交えた声が響く。振り返った先で、金髪の青年が苦笑している。  エイデン・アレキシス。  侯爵家の嫡男ながら、まだ父親が元気なのを逆手に取り、趣味で取得した資格を生かした医者になった変わり者だ。すっかり王宮に馴染んでしまった友人へ、執政は意味ありげな視線を送った。 「エイデン……」 「診察をします。別の部屋へ移動しましょう、さすがにここでは……」  荒れた室内を見回し、さっさとウィリアムの腕を支えて隣室へ逃げてしまう。ぐったり身を任せていたくせに、ドアを閉めて密室になった途端、ウィリアムは自ら歩いて椅子に腰掛けた。  やっぱり……。 「新たなケガは?」 「見れば分かるだろ」     
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