3-9.最後までステップを踏むなら

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 水色の瞳を細めて睨みつけるエイデンへ、ウィリアムは肩を竦めてみせた。新たなケガをしていないと知り、ほっとした反面苛立ちも募る。呼び出された時は、さすがにこれ以上のケガは危険だと肝を冷やしたというのに。 「でも包帯くらいは必要でしょう」  演技の小道具として――。 「頼むわ。その前に着替えてくる」  ひらひら手を振ってシャワーを浴びに行く友人を見送り、エイデンは呆れたと溜め息を吐いた。  国王エリヤが玉座に腰掛けるのを待って、ワルツが流れ始める。恒例の舞踏会最初の曲に、パートナーをエスコートして踊り始める紳士淑女を見やり、物憂げな眼差しを軽く伏せた。 「あれから、もう一ヶ月か」  襲撃事件、オズボーンとの緊迫した関係、ミシャ侯爵とスタンリー伯爵の死。様々な事件が脳裏を過ぎり、忙しかった時間を追いやるように首を横に振った。 「ウィリアム」 「はい、陛下」  すぐ脇に控えるウィリアムは、騎士として礼装している。相変わらずの黒衣は艶やかな絹糸で刺繍が施され、見た目のシンプルさと裏腹に正装として相応しい格を感じさせた。  一方、真っ白な光沢ある生地に金糸の縁と刺繍、飾りに鮮やかな宝石を縫いとめたエリヤの衣装は、まったく対を成す色使いで華やかだ。 王冠を頭上に頂き、さすがに重いのか。憂鬱そうに時折右手で位置を直している。足元へ蹲るマントは、斑の毛皮が飾られて豪奢だった。  軽く目を伏せたまま、エリヤは静かな声で命じる。     
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