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「ここにいろ」
「はい」
「その身を傷つけることも許さん」
「はい」
「あと……」
言い淀む幼い主が手招きする。素直に身を屈めて近付けば、ウィリアムの首に手を回して引き寄せたエリヤが耳元に囁いた。
「お前は俺の物だ。だから、俺をくれてやる」
少し迷いを残して耳を擽った誘いに、驚いたウィリアムが目を瞠る。しかし覗いた蒼い瞳に嘘はなく、すぐに微笑んでさりげなく頬に唇を掠めた。
「はい、ありがとうございます」
人目がある場所でなければ、すぐにでも抱き寄せてしまいそうな衝動を押し殺す。ウィリアムの嬉しそうな顔に、エリヤも頬を綻ばせた。
ワルツが終わり、次の円舞が始まる。響いてくる音楽をよそに、2人は互いを見つめたまま動かなかった。
「あと何曲だ?」
舞踏会が恒例である為、大抵10曲ほど過ぎたあたりでエリヤは退席することが多い。残り時間を尋ねる主の吐息が持つ熱を、自らの肌で感じながら甘い誘惑に拳を握った。
「5曲は我慢してください」
「……わかった」
拗ねたような主の返答に微笑を向け、ウィリアムは屈めていた身を起こした。
視線を廻らせた先で、ショーンが意味ありげにグラスを掲げて見せる。乾杯に似た仕草は、様々な意味を含んでいた。
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