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「行ってきまあす」まだあどけなさが残る女の子が玄関から出てきた。
今はもう十九歳だろうか?
修一は、立派なお屋敷から出て行く女の子を、陰から見つめていた。
「和美…」
修一は十五年前、飲み屋からの帰り道に二人連れの男に絡まれた。相手も同じ、どこかの会社員だった。
売り言葉に買い言葉とはよく言ったものだ。
お互い酒も回っていた事もあり、口論の末に殴り合いになった。
すると一人の男は打ち所が悪かったのだろう。
地面に転がった拍子に頭をぶつけて、そのまま動かなくなった。
もう一人の連れが慌てて救急車を呼んだが、男はそのまま亡くなった。
修一は傷害致死罪として、刑務所に送られた。
相手から絡んで来たのに、過剰防衛だと九年の刑を言い渡された。
その時、娘の和美はまだ四つだ。人殺しの父親を持つことは、彼女の人生にとって大きな汚点となるだろう。
結局、修一は離婚して娘には会わない約束をさせられた。それが和美のためだと、自分も納得した。
修一は承諾したあの日に娘だけでなく、自分の人生も捨ててしまったのだった。
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