鏡の中に何かいる

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 洗面所には二つの洗面台があり、一つは水道が故障中になっている。タオルとポーチを鏡の前に置き、眼鏡を外してタオルの上に置く。そして、洗顔フォームを手に取り少し泡だててから、顔に優しくあてて、目を閉じた。  顔に付けた泡を丁寧に洗い流し、鏡の前に置いてあるタオルを取ろうと手を伸ばす。タオルの上に眼鏡を置いてあったことに気付いて、目をギュッとつぶったままの手探りで眼鏡をどける。  手に取ったタオルを顔にあて、目を開けると、鏡に映る女生徒に気が付いた。美久は自分が洗面台を占有していたことに気付く。 「あ、ごめんなさい。すぐどきます」  そう言いながら、タオルを片手に後ろを見る。  しかし、女生徒はいない。  見間違いかと思いながら、また鏡に向き直り、眼鏡に手を伸ばす。眼鏡をかけて、改めて鏡を見ると、やはり女生徒が後ろに立っている。鏡に向かって美久の右側に立っている女生徒。その女生徒と美久の目が合う。美久は鏡を通して軽く会釈して、タオルとポーチを持ちながら場所を開けようと左に移動した。  その時、ふと気付く。  鏡に映る女生徒の半分が見えないのだ。まるで、そこで線を引いたかのように右側半分がまったく見えない。  不思議に思いながらも、振り向く。振り向いた途端に、絶句した。  女生徒は確かにいたのだが、左半身が……、無い……。     
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