24歳の午後

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家に着くと、母親が夕飯を作って待っていた。台所から漂ってくるのは、彩子の好物であるチキンカレーの匂いだ。 「家の手伝いもしないでブラブラと。また図書館? お一人様で」 この頃の母は辛らつである。 親友の智子が結婚すると知ってからは、特に皮肉がきつい。何でも結婚に結びつけた言い方をするようになった。 口答えすれば正論と言う名の反撃を受けるだけなので、彩子は黙ってしまう。 「イマドキは30代でも独身なんてフツーだし、いいんじゃないの。そんなに焦らなくてもさ」 「真二(しんじ)、お母さんは23歳でお前を産みました」 一つ年下の弟がさりげなく援護するが、母はぴしゃりとはねつける。世代間ギャップは、どうやっても埋まらないのだ。 「とにかく、家の手伝いの一つもしないのはどうなの」 弟の援護が油を注いだと見えて、火勢が激しくなる。 (洗濯と掃除はしてるけど) と、彩子はいつも心で言い返す。 だが、たとえ家事全般を請け負ったとしても、この母は納得しないと知っている。理不尽なようだが、これが現実。彼女は山辺家の法律なのだ。
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