24歳の午後

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「いただきま~す」 彩子は食卓に付くと、チキンカレーをほおばった。 つとめて明るく振舞うのは、自衛手段である。母の機嫌を損なわぬよう、24年と数か月を生きてきたのだ。 『いつも仲良しで、いいわねえ』などとご近所さんに羨まれるが、母娘の微妙な関係は他人には分からない。 嫌味や皮肉を言うわりに、娘の好物をこしらえる母の気持ちを、彩子だってよく分からないのだ。 父親は趣味の釣りに出かけており、今夜も遅くなるようだ。 それも母親の不機嫌の一因だと彩子も真二も知っている。いつもながら、自分の妻に気遣いをしない父親を、二人は恨めしく思っている。 「あ、そうだ。あんたの友達から電話があったわよ。何て言ったかしら、ソフト部の仲間だったって子」 母親は電話機の横からメモを持ってきて、彩子に渡した。 【雪村(ゆきむら)律子(りつこ)さん ソフト部 電話×××-××××-××××】
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