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しかし、原田はそんな迂闊に気付かないのか、吸い込まれるように薄緑色の石を見つめている。
その目はくるっとして、店内のライトを星のように映しだす。
彩子は動揺した。原田の目元が、初恋の彼に似ているような気がした。
「お待たせいたしました。お飲物でございます」
ウエイターが飲物を運んできて、二人はあらためて向き直る。
「梅の香りが爽やかですよ」
原田の言葉を受け、彩子はグラスを手にして鼻先に近づけた。やや無作法だが、彼は大らかに見守っている。
「本当だ。いい香りがします」
「乾杯しましょうか」
原田はグラス越しに彩子を見つめた。ほんの一瞬ではあるが、真摯な眼差しだった。
「ええと、そうだな。では、二人が今夜出会えたことに」
互いにグラスを掲げ、軽く合わせる。
梅酒と炭酸が織り成す爽快な味わいに、彩子は感動した。
「美味しい!」
「それは良かった。勝手に選んでしまって、実は心配していたので」
彩子と原田は、初めて自然に目を合わせ、微笑み合った。
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