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食事する間、互いについて大まかに話した。
原田は大手レンズメーカー「K光学株式会社」の製造部に勤務するエンジニアだ。彩子の母が喜んだとおりの大きな会社である。
仕事の内容については、彩子が聞いてもあまりピンとこなかったが、かなり忙しい部署のようだ。
彩子の勤め先は地元の中小企業である。案の定、彼は会社の名前も知らなかったが、仕事内容には関心を持って耳を傾けてくれた。
やがて運ばれてきた食後のコーヒーが、二人の出会いの幕引きを告げていた。
彩子がカップにクリームを入れ、スプーンで渦を描くのを、原田がじっと見守る。食事を終えた客がひと組ふた組と、店の外に消えていく。
(私は、私達はどうするのだろう……)
彩子は判断が付かずに困っている。自分の気持ちも、雲を掴むように判然としない。
こんな短い時間で、すべて決めなければならないのだろうか。
あまりにも無茶な話だった。
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